財務と課税(前半)

2024.04.15

今回は「利益剰余金を作るための労働生産性」と予告しましたが、その前に「財務と課税」について、前半と後半の2回で解説します。
 
前回述べた複式簿記の仕組みは、資本主義経済の仕組みの中心が「資本」にあることを示しています。
しかし、経営者であっても、売上や利益に比べ資本への関心は薄い方が多いのではないでしょうか。
少々乱暴な言い方をすれば、短期で経営を考える場合は、売上と利益が主になります。
PL(損益計算書)経営というわけです。
しかし、長期で経営を考える場合、PL経営は「希望的観測」になり勝ちです。
右肩下がりで長期予測を立てると最後は「倒産」となるので、精神的によくないですね。
「だから、長期は考えない」という経営者の方もいるようですが、それもよくないですね。
 
長期で経営を考えることは、BS(貸借対照表)経営です。
将来、売上に変わる「売掛金」や「在庫」などの資産、逆に費用となる「買掛金」や「未払金」を把握することで、近未来の売上や損益予想の基礎になります。
この程度は多くの方が認識されているでしょうが、「資本の内容は?」となると、次第に“あやふや”となるようです。
すぐに思い浮かぶのは「資本金」でしょうが、それ以外となると「経理に聞かないと・・」となる経営者の方が多いようです。
 
それでは、ここで御社のBS(貸借対照表)をご覧ください。
「資本の部」が、長期に渡る企業の財務力を示しています。
「純資産の部」としている決算書もありますが、同じ意味です。
この中身は、大きく「資本金」と「利益剰余金」に分かれます。
資本金は企業のベースとなっている科目ですが、中小企業の多くは1000万円となっています。
これは、かつて、会社法によって「株式会社になる最低資本金」が1000万円であった名残りのようなものです。
現在は、設立5年の間に最低資本金まで上げることを条件に、資本金1円でもOKとなっていますが、1000万円が踊り場となって、そこで止める企業が大半です。
このように、最低資本金1000万円が常識化しているわけです。
資本金をもっと上げられる中小企業は多いですが、上げるメリットよりデメリットのほうが多いと判断して、上げない企業が多いようです。
つまり、「資本金」は、乱暴な言い方をすれば、たいして意味のない科目となってしまっています。
 
一方の「利益剰余金」は、大きな意味があります。
創業以来の利益を積み上げた値(正しくは「利益-損失」の総合計)だからです。
この金額が大きい会社は、創業以来の頑張りで利益を積み上げてきた優良企業と判断することができます。
故に、上場大企業は株価に影響することもあって、相当に大きな数字になっています。
 
しかし現在、中小企業の70%は、この「利益剰余金」が赤字と言われています。
でも倒産しない企業が大半です。
この裏には「法人税を逃れたい」という企業の考えがあります。
法人税はその年度にかかる税金ですが、赤字であれば課税されません。
また、当該年度が黒字でも累積赤字があれば、課税されません。
この制度を使って法人税課税を逃れているわけです。
 
本当の赤字が大きく積み上がれば経営は継続できませんが、現預金があれば倒産しません。
自社になくても、他から資金調達できれば、やはり倒産しません。
多くの赤字企業は、こうして倒産を防ぎながら、法人税を払わない仕組みで運営しているわけです。
 
もちろん、この方法は違法ではなく合法です。
財務省にすれば腹立たしい経営ですが、合法ゆえに法人税は取れません。
そこで導入したのが「消費税」です。
次回は、この税を導入した政府(財務省)の思惑を解説します。